恐怖の先 漆黒の闇が、イーストシティを包んでいた。 『漆黒』と表現されるからには、中途半端な明るさなどを一切廃した、暗い闇だった。 以前祖父のコレクションの中にあった、東方の島国で作られたという塗盆が、まさに今の闇のようだと、リザ・ホークアイは思った。 本来煌々と燈っているべき街灯は、まだ時間帯が早いせいか、その職務を全うすることなく、静かに沈黙を守っている。 夕方、5時36分。 まだ完璧に暗くなるには早い時間だ。 況してや、冬至にはまだ随分間のある時期だったから、これほどの闇に包まれること自体、稀であろうか。 否、寧ろ有ってはならない事のようで、気丈なホークアイも少し気味悪く思った。 この尋常ならざる空を、街人も不気味に思うのか、中央司令部に続く大通りにもかかわらず、道を行く人は誰も居なかった。 そのせいか、自分自身の立てる軍靴の音がこの世界の唯一の音のように思えて、有能な軍人であるホークアイも、特有の寂しさに駆られた。 彼女が普通の女性であったなら、脇に抱えていた書類を握り締めて一目散に駆け出していたかもしれない。 然し、ホークアイはそんな臆病な小娘のような真似をする女性ではなかったし、それ以前に走ったからと言って、この闇の晴れる場所が有るわけでもないことを知っていた。 それでも、気分のよくないことには変わりなかった。 一台の車が統べるようにホークアイの横を通り過ぎ、あっという間に闇に消えていった。 ホークアイの足音より他に何もなかった世界が、一瞬だけ他者の存在を主張しているようで、少しだけホークアイはほっとした。 落ち着いた足取りでホークアイは足を進めていた。 そのときだった。 明らかに彼女の足音でない音が聞こえる。 コツリと、確かに鳴った。 耳のよいホークアイには、その足音が軍人のものであることが直ぐに判った。その独特の響き。 恐らく真っ直ぐに歩いているであろう足の進め方。 この通りは中央司令部から真っ直ぐに伸びている。 帰宅の軍人が歩いていたとて何らの不思議はない。 だが、ホークアイが中央司令部から今まで歩いて来た間は、その足音の主がいなかったはずだった。 わき道から来たのだろうか。 然し、軍人が出張するような場所は、いままでになかったはずだった。 ホークアイはゾクリとした。 彼女らしくなく、小走りになる。 出来るだけはやく、足音の主から通り過ぎたかったのだ。 速く、早く、はやく、はやくはやく。 ホークアイを恐怖で包んだのは、ホークアイが小走りになった途端、足音の主も彼女と同じように小走りになったせいだ。 ホークアイは腰の銃に手を掛けて、思い切って振り返った。 その瞬間、ホークアイは悲鳴を上げそうになった。 上半身が闇に隠れて見えなかったせいだが、何よりもその男性と思われる足音の主が、手に赤いものを握っていたせいだった。 必死で恐怖を押し殺し、銃を抜いてその主にに向ける。 「動くな! 動くと撃つ!」 恫喝するように叫ぶと、足音の主がぴたりと歩みを止めた。 ホークアイは震える手で銃を握りながら、じりじりと後退りをして、その場から逃げ去ろうとした。 男は、それに気がつくと、一歩彼女に歩み寄った。 「動くなと言っている!」 殆んど悲鳴のように叫ぶと、足音の主が笑った。 彼女を嘲笑う、不気味な変質者の笑いではなく、聞きなれた笑い声だった。 「たい……さ……?」 「中尉、私だ。撃たないでくれ」 両手を挙げながらゆっくりと近づいてくる男は、漸く顔がよく見える位置まで来ると、止まった。 「すまなかった、怖がらせてしまったね」 「――まったくです! 変なことをなさらないでください!」 「悪かった」 そう言って、ロイ・マスタングは右手に持っていた赤い花束をホークアイに差し出した。 赤い薔薇の花束が、闇の中で浮かんで見えた。 「大佐……」 「君の、誕生日だったろう?」 「わざわざ、これのために?」 「ああ、君の家に行くつもりだったんだが、ハボックに車で送らせていたら、前方に君が歩いていると言うから。 車から降りて、君の跡を歩いて来たんだ」 「あ! あの車がそうだったんですか。それにしても! 何ではやく声をかけてくれなかったんですか!?」 「いやぁ、すまんすまん。タイミングを計っていたら遅れた」 「まったくもう!」 ちっともすまなそうでない顔をしたマスタングは、ホークアイの肩を図々しく抱いて、そのまま歩き出した。 ホークアイは、呆れる気持が残ったものの、そうされると弱い彼女のこと。 そっとマスタングに寄り添って、漆黒の闇の中にとけこんで行った。 ---------------------------------------------------------- ロイアイアンソロメンバーであり、相互もして下さっている「 紅青堂」の和華ちゃんから素敵な誕生日プレゼントをもらって しまいましたきゃほーい!^^                あああああときめく!すまなそうじゃない増田ににやにやして しまいますvvv                       リザたんもかーわいいなあvvvもえ! 和華ちゃん!こんな素敵な小説を本当に有難う!       転載許可も快くくれて有難うvvv               これからも仲良くしてやって下さい^^ 07.11.27
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