「鷹目秘書。」
オフィスの廊下を歩いて、エレベーターに乗ろうと待っていた時だった。
少し低い男の声が後ろから私を呼んだ。
声の主は きっとアノヒト。
勝手なひとね。
さっき私が貴方を会社中探し回っていた時は、絶対に出てこなかったのに。
まぁそれは貴方の机の上で、ビルの様にそびえたつ書類の山が目に見えていたからでしょうけど。
少しでも片付いてると思ってるのかしら。
彼らはお利口さんにして、今も貴方の机の上で待ってるわ。
「増田社長、早く急ぎの書類に手をつけて下さい。」
また今日も残業になってしまいます、と言うと、彼はにっこりと笑ってこう言ったの。
「そうか、なら今日は私と残業デートだな。」
なにが"デート"ですか。
本来の力を発揮すれば早く片付くでしょう?
「馬鹿な事を仰っていないで早く仕事して下さい。」
そうして結局、いつも何も言えずに残業になだれ込む。
何も言えないのは、そんな事ですら嬉しく思ってしまっているから、
なんて 口が裂けても絶対言ってやらない。
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